分析できない題材が、ある
このブログでは、本も動画もニュースも、片っ端から仏教のレンズで読んできました。ところがどうしても書けない題材があります。
先日も「死ぬまでにやるべき20のこと」という記事を扱いましたが、20項目のうち書けたのは3つだけでした。歯列矯正、脱毛、株を買う、家庭菜園、外国語——これらに仏教を接続すると、こじつけになります。
長いあいだ、これを自分の力不足だと思っていました。違いました。書けなかった題材には、共通点があったのです。
「どう生きるか」と「なぜ生きるか」
人生には、性質のまったく違う二つの問いがあります。
どう生きるか(How) と なぜ生きるか(Why)
以前の記事で書いた通りです。Howは手段の世界——衣食住、健康、お金、技術、人間関係。生きること自体が大変なので、私たちはほぼ一日中この問いを解いています。
一方Whyは目的の世界です。手に入れたものは、何のために手に入れたのか。必ず死ぬのに、なぜ生きるのか。
そして仏教が扱うのは、Whyのほうです。
——だから書けなかったのです。歯列矯正は、完全にHowの話だからです。噛み合わせを整えるのは実務であって、生きる意味の問題ではありません。カテゴリーが違うものを、無理に接続しようとしていた。それだけの話でした。
実は、このブログは同じことを三通りの言葉で言っていた
ここからが今日の本題です。整理していて、自分でも驚きました。
このブログは、まったく同じ区別を、三つの別々の言葉で書いてきました。
①なぜ/どう——今日の話です。目的と手段。
②ベクトルの方向/大きさ——数式ガイドや慈悲と智慧の記事で使ってきた道具です。努力は大きさ、責任は方向。慈悲が方向、智慧が大きさ。
③一階/二階——八正道の記事などで使った建て付けです。一階はこの世の果報(今日の行いで明日の暮らしが変わる)、二階は自力では届かない領域。
この三つは、同じ一本の線でした。
Howは、大きさであり、一階です。Whyは、方向であり、二階です。バラバラに書いてきた道具が、全部同じ場所を指していた——これは書いている本人にとって、かなりの発見でした。
掛け算だから、方向がゼロなら果もゼロ
ベクトルの言葉に直すと、この構造の怖いところが見えます。
ベクトルは大きさ×方向です。掛け算ですから、方向がゼロなら、大きさをどれだけ増やしても結果はゼロになります。
「死ぬまでにやるべき20のこと」を全部やり遂げたとします。歯を治し、体を鍛え、株を買い、美術館にも行った。大きさは、確実に増えています。
それでも「なぜ生きるのか」には、一つも答えていません。リストの限界はここにあります。Howをいくら積み上げても、Whyには到達しない。積み上げる方向が違うからです。
ただし——Howを軽んじる話ではありません
ここは、はっきり書いておきたいところです。
「どう生きるか」は、低い問いではありません。歯を治すのも、体を鍛えるのも、貯金するのも、苦を減らすための実務です。
そして抜苦与楽の記事で書いた通り、苦を抜くことは、慈悲の半分でした。仏教は「苦しみを我慢せよ」とは説きません。実務としてのHowは、堂々と仏教の中に入っています。無財の七施も精進も、全部Howです。
言っているのは「Howだけでは足りない」であって、「Howは不要だ」ではありません。ここを取り違えると、生活を投げ出す方向に行ってしまいます。
順序が、逆になっていないか
むしろ実際的な話をすると、Whyが決まっているほうが、Howは楽になります。
20項目のリストを前にして迷うのは、選ぶ基準がないからです。何のために生きているかが決まっていれば、やるべき項目は自動的に絞られます。執着とこだわりの記事で書いた「選択肢が増えるか減るか」も、判定できるのはWhyがあるときだけです。
方向が決まって、はじめて大きさが意味を持つ。逆はありません。方角も決めずに全力で走るのは、間違った場所へ速く着くだけです。
まとめ——このブログの守備範囲
というわけで、このブログの立ち位置を、はっきり書いておきます。
ここは、Howを教える場所ではありません。片づけの手順も、投資の方法も、健康法も、専門家の書いたものを読むほうが確実です。
このブログがやっているのは、Howの本を読んで、その底にWhyが敷かれているかを確かめる作業です。49冊読んでわかったパターンで書いた通り、現代の本は技法では仏教と一致するのに、理由を尋ねると分かれます。分かれ目は、いつもここでした。
だから歯列矯正は、書けません。それは正しくHowの話であり、Whyを名乗っていないからです。名乗っていないものに、仏教を当てる必要はありません。
——ただ、こうも思います。歯を治した先に、何がしたいのか。そこを一度でも問うたことがあるなら、それはもうWhyの領域に片足を入れているということです。
今日も良い種をまいていきましょう。


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