ホームグラウンドに、医学が来た
今回の素材は、医師・石原結實さんの著書に基づく「感謝と利他の医学」です。他人に親切にするとホルモンが出て、感謝すると免疫が上がる——このブログで書き続けてきた自利利他・布施・おかげさまが、聴診器と血液検査の言葉で語られている。答え合わせとして、これほど楽しい素材はありません。
ヘルパーズ・ハイ——布施の逆説の生理学
人を助けると、助けた側の脳に「幸せホルモン」オキシトシンや、多幸感をもたらすベータ・エンドルフィンが分泌される——ヘルパーズ・ハイと呼ばれる現象だそうです。心臓や血管の強化まで期待できるとのこと。
つまり、こういうことです。布施は、受け取った側より先に、与えた側の体に効く。「ありがとう」の記事で「感謝は言うだけ得な言葉」と書き、布施の記事で「与える人が幸せになる」と書きましたが、その配線図が生理学で示されたわけです。2500年前に「与えよ」とだけ言われて実践してきた人類は、理由を知らずに正解を踏んでいたことになります。
挨拶は、もともと禅語である
本書が「今日からできる利他」の筆頭に挙げるのが挨拶です。ここで一つ、良い豆知識を。「挨拶」は、もともと禅の言葉です。挨=心を開いて押す、拶=近づく。禅僧同士が問答で互いの境地を確かめ合う「一挨一拶(いちあいいっさつ)」が語源とされます。
朝の「おはようございます」は、無財の七施のパッケージ商品です——明るい声(言辞施)、笑顔(和顔悦色施)、心を開いて近づく(心施)。財産ゼロ、所要3秒、しかも言った本人の副交感神経から先に整う。利他の入門として、これ以上の教材はありません。
「嫌々やる仕事」と「誰かの役に立つ仕事」は、体まで違う
本書の指摘で唸ったのがここです。同じ仕事でも、嫌々やればストレスホルモン(コルチゾール)が出て免疫が下がり、「これはどこかで誰かの役に立っている」と捉えれば精神が安定し免疫が上がる——仕事の中身は同じなのに、解釈で体の中身が変わる。
一見四水の医学版です。そして「あなたの仕事は必ず誰かの陰(おかげ)になっている」というのは、おかげさまの記事で書いたとおり、気休めではなく事実です。事実に沿った解釈を選ぶ方が、心にも、どうやら体にも、正直に効くのです。
杉原千畝——「順後業」が歴史スケールで観測された例
本書は利他の実例として、杉原千畝の「命のビザ」を挙げます。私が注目したいのは、これが一人の英雄譚ではなく連鎖だったことです。杉原がビザを書き、ウラジオストクの根井三郎が渡航許可を出し、JTBの高久甚之助らが輸送船を手配し、敦賀の町の人々が食料を配って歓迎した——蜘蛛の糸の記事で「もし『一緒に登ろう』と言えていたら」と書きましたが、これは実際に言えた人たちの実話です。
そして、まいた種の行方です。救われた人々の子孫は10万人を超え、71年後の東日本大震災のとき、世界のユダヤ人コミュニティから日本へ支援が寄せられたと伝えられます。三時業の記事で書いた順後業——完全に忘れた頃に返ってくる果——が、国と世代を超えて観測された、歴史的な実例です。因果の帳簿は、70年経っても記帳を忘れていませんでした。
ストレス概念の父が、最後に辿り着いた場所
「ストレス」という概念を提唱し、ノーベル賞候補に何度も挙がった医学者ハンス・セリエは、晩年、ストレスを溜めない最善の方法をこう結論づけたと伝えられます——「感謝の気持ちを持つこと」。万物に感謝を捧げる生活を送ったという逸話も残っています。
一つだけ、正直な注意書きを。感謝は治療の代わりにはなりません(このブログは因果関係に厳格です)。ただ、ストレスが体を蝕む経路を発見した本人が、その解毒剤として最後に「感謝」を選んだ——知恩・感恩・報恩を説いてきた仏教にとって、これほど重い援軍もありません。
まとめ——2500年分の臨床データ
仏教は「利他は巡って自利に返る」と説き続け、医学はそれをホルモンと免疫で追認しました。考えてみれば、仏教とは2500年分の人間の臨床観察なのだから、当然の合流なのかもしれません。
処方箋はシンプルです。朝、心を開いて近づく(挨拶)。仕事の陰の宛先を思い出す。寝る前に、今日の「有り難し」を一つ数える。——全部ゼロ円で、今日から。あなたの蔵と、免疫と、そしてどこかの誰かに、同時に効きます。

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